代表者氏名 | 打保 由佳(うつぼ ゆか) |
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代表者所属機関 | 中部学院大学 |
役職・課程 | 特任准教授 |
助成年度 | 2022年度 |
社会的包摂を目指す実践記録を通して
ソーシャルアクションの新たなモデルを提唱する研究
本研究は、社会から排除された人々への差別による権利侵害の社会的責任を問い、抑圧構造の変革を求めるソーシャルアクションの根幹を改めて提示し、社会的排除論を視角に「障害者運動家Aさんのライフヒストリー」を分析することで、協働モデルを批判的に検証することを目的とする。
日本のソーシャルワーカー養成において、ソーシャルアクションの新たなモデルとして提起された協働モデルは、ワーカーが判断能力の低下によりニーズを表出できない、また、既存の制度で対象とならない人々の権利を擁護するための代弁機能を担い、法改正や創設のために行政交渉を行う技術であることが強調されている。しかし、筆者はこのモデルが制度・政策の構造的変化を促すことを重視するあまり、社会構造が生み出す社会問題を捉える視点が弱くなり、構造的な変革を視野に入れたソーシャルアクションの機能を果たせないことを指摘する。
社会的排除を視点にライフヒストリーを見ると、施策として障害者への差別をなくし、共生社会を目指す方向がとられる一方で、社会の人々に根付いている差別意識は簡単になくならないこと、行政交渉によって制度を改正、創設したとしても、障害者の地域移行を阻む問題が発生することが明らかとなった。
従って、協働モデルが強調する行政交渉では、法改正や創設をなし得ることができたとしても、問題を引き起こしている社会の人々の差別意識は解消されていないという根本的な原因が残ることが指摘できる。そのため、協働モデルの考え方では、ソーシャルアクションが本来持つべき核となる機能を果たせないことが示唆された。