代表者氏名 | 酒井 奈緒美(さかい なおみ) |
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代表者所属機関 | 国立障害者リハビリテーションセンター研究所 感覚機能系障害研究部 聴覚言語機能障害研究室 |
役職・課程 | 研究室長 |
助成年度 | 2022年度 |
心理・発達面を中心に見た幼児吃音の改善メカニズムの探索:子どものコミュニケーションと社会参加のための新たな支援に向けて
吃⾳は、初頭⾳の繰り返し、引き伸ばし、加えて発声が困難となるブロック(阻⽌)を中核症状とする発話の流暢性の障害であり、発症のピークは幼児期にある。本研究では、幼児吃音の理論の一つで「子どもの能力と発話にかかる要求との不均衡が吃音を生起させる」とするDemands and Capacities Model(以下D-Cモデル: Starkweather, 1987)について定量的に検証すること、あわせて保護者向けにD-Cモデルに基づく相互交渉に関する講演(教育)を実施することによって、この不均衡を調整することが可能かどうかを検証することを目的とした。14名の幼児とその保護者の会話音声データ、各種検査結果、および質問紙・アンケート調査の結果から、(1)発話速度、発話長、発話の交替潜時の3つのDemandsのうち、子ども自身の発話の長さ、および保護者と子どもの発話の長さの差が吃音頻度に有意に相関しており、かつ発話の長さと語彙力の関連が示唆されること、(2)D-Cモデルに基づく相互交渉の教育が、Demandsとなりうる親の働きかけの9側面のうち、発話速度、発話の長さ、子どもへの注目において主観的な行動変容をもたらすとともに、実測値としても発話速度に変容を生じさせることが示された。これらの結果から、(1)D-Cモデルにおいては、保護者・本人ともに、語彙力にあった発話長に調整することが吃音の生起を抑制させうること、(2)D-Cモデルに基づく相互交渉に関する指導は、保護者にとって有効であるものの1度の講演では不十分であり、子どもの発達や吃音の状況を踏まえた継続的・定期的指導が必要であることが示された。