代表者氏名 | 中川 聡(なかがわ さとし) |
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代表者所属機関 | 東京大学次世代知能科学研究センター |
役職・課程 | 特任助教 |
助成年度 | 2022年度 |
深層学習アーキテクチャを用いた高齢者の包括的状態推定システムを搭載したカウンセリングロボットによるQOL向上に向けたロボットの言動パーソナライズ実証実験
本研究は,高齢者の生活の質(QOL)を向上させるためのカウンセリングロボットの開発とその効果の検証を目的としている.QOLは,身体的,精神的,社会的な側面を含む包括的な指標であり,ジェロンテクノロジーでは,高齢者の自律性とQOLの向上を最終目標に据えていることから,QOLが重要な指標であることが窺える.近年,介護者不足に対処するためにロボットを利用する研究が増加している.我々は,高齢者のQOLをリアルタイムで推定し,推定されたQOLに応じて適切で共感的な反応を生成するカウンセリングロボットを開発した.高齢者を対象としたカウンセリングロボットとの1週間のインタラクション実験から得られた結果は,QOLの精神的側面において顕著な改善を示し,認知行動療法と共感的な反応の使用が自己開示を促進し,カウンセリングの効果を高めることを示した.また,QOL推定結果と共感6要素に基づく返答が高齢者の思考を整理し,さらに抑うつ度を低下させることで精神的健康を改善することに寄与した.本研究は,高齢者のQOLを改善するだけでなく,個人を理解し,適切に反応するロボットが継続的な関係構築を促進することを示唆している.また,研究助成期間を通じて,当初の目的であるQOLを基軸としたカウンセリングロボットの実証を達成しただけでなく,社会運用に向けた新たな取り組みにも着手することができ,福祉施設へのICT導入を促進するための指針となる道筋を示した.