代表者氏名 | 李 卿(り けい) |
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代表者所属機関 | 日本医科大学付属病院 |
役職・課程 | 臨床教授 |
助成年度 | 2022年度 |
ヒノキ精油の吸入による認知機能低下の予防効果に関する研究
【目的】
本邦では高齢者の認知症の有病率が増え続けており、認知症の予防は重要かつ喫緊の課題である。以上の背景を踏まえて我々は、森林環境の嗅覚成分であるヒノキ精油の吸入がストレスホルモンを減少させ、更にうつ症状をも改善することを報告してきた。また先行予備研究ではヒノキ精油の吸入による認知機能低下の予防効果が示唆されたが、症例数が少なかったため、本研究ではさらに症例数を増やしてヒノキ精油の吸入による認知症の予防効果を追加検討し、認知症の予防対策について提言していくことを目的とした。
【被験者と方法】
本研究はリハビリテーション施設に入所している軽度・中等度認知症(MMSE:11~23点)の患者を対象に精油吸入群と対照群に分けた。吸入群は毎晩就寝時間内に精油発散器にてヒノキ精油を居室内空気中に拡散して10ヶ月吸入した。対照群は精油なしの空気清浄機を使用した。介入前後にMMSE得点、認知症の行動・心理症状(BPSD)の重症度、BPSDの負担度、収縮期血圧、拡張期血圧、心拍数、体重、睡眠時間、介護度、1ヶ月間の転倒回数を記録評価し、ヒノキ精油の吸入によるこれらの指標への影響を検討した。
【結果と考察】
対照群ではMMSE得点、BPSDの重症度、BPSDの負担度、血圧、心拍数、体重、睡眠時間、介護度、1ヶ月間の転倒回数において吸入前後の間に統計的な有意差を認めなかった。これは時間経過による影響を認めなかったことを意味する。
ヒノキ精油吸入群では収縮期血圧と拡張期血圧において吸入後に低下傾向を示したが、統計的に有意差は認められなかった。MMSE得点、BPSDの重症度、BPSDの負担度、心拍数、体重、睡眠時間、介護度、1ヶ月間の転倒回数において吸入前後の間に統計的な有意差を認めなかった。
今回は、実験期間中に被験者の退所、入院及びその他の原因による離脱者が多いため、観察・評価指標において統計的に有意差を認めなかった。今後の研究において被験者の退所、入院及びその他の原因による離脱を対処する方法を検討する必要がある。
本研究で使用されたヒノキ精油は「ひのき精香株式会社」によってご提供頂いた。本研究は三郷ケアセンター倫理委員会と日本医科大学中央倫理委員会によって承認された。