研究概要

代表者氏名山下 慎一(やました しんいち)
代表者所属機関札幌学院大学法学部
役職・課程講師
助成年度2012年度

研究テーマ

社会保障法領域における、市民の利用しやすい権利救済制度に関する比較法的研究

研究概要

 社会保障給付を受給しようとする市民は、経済力・情報力・専門性等多くの点で、行政に対して不利な立場に立たされる。しかしながら、行政不服審査をはじめとする権利救済において、市民と行政の力の非対等に注意を払った、公正な審理を追求する研究は、未だ不十分である。そこで本研究は、イギリスの審判所(Tribunal)制度の、「行政からの独立性」と「市民援助の職権主義」の歴史的展開に着目して、比較法的示唆を得ることを目指し、その結果、下記の検討結果を得た。
 まず、イギリス審判所制度における、独立性の史的展開からは、実体法の規定のいかんに関わらず、独立性の程度の同じ権利救済制度を設けることが可能であることが明らかになる。
 続いて、イギリスでは、審判所が市民と行政の力の不均衡の是正のために、職権主義的に審理を実施する。つまり、審判所のメンバーが、上訴人たる市民との対話の中で、当該市民が言いたいことを汲んで、その主張内容を法的に整理する、という積極的な職権行使がなされており、それによって、市民は(法曹等の)代理人をつけることなく、自力で、不服申立てを追行することが可能となっている。
 さらに、不服審査における市民と行政の力の不均衡の是正のために職権主義を活用するには、不服審査機関が行政からの一定の独立性を達成していることが前提条件となる。